スクランブル交差点は大渋滞していて、停まっている車と歩行者で溢れていた。われわれの後ろのオープンカーには壮年男女が乗っており、運転席から女性が身を乗りだして、男性のシャツを脱がせて手足を折畳んだり、縄で縛ったりしてる。男性が人形のように動かないので、あれは殺人現場なのでは...と推測する。
小路にそれて運転していると、向かいからパトカーが何台も来た。運転手のG子に「さっきの車、やっぱり何か事件だったんだね」と声をかけると、「え、うん...」と何故かばつの悪そうな表情をしている。気づくとパトカーはわれわれを取囲み、車に警察官が乗込んできた。どうやら逮捕されるのは私達らしい。同乗してた何名のうち、G子だけが無罪だそうで、私は先程G子がうかべた表情の意味を悟る。
パトカーで留置所に送られる。古い病院の待合室と、免許センターを混ぜたような雰囲気の施設だ。独房に入るために、いくつか手順を踏まないとならないらしい。床にひかれた点線に、われわれは横一列に並ばされる。目の前の電光掲示板に『時計』『靴下』など表示される度に、身に着けているものを取外さなくてはならない。『傘』が指示されたとき、私は「大切な傘をどうしても、あとで使いたい」と請い、没収を免除してもらう。
最後に配布されたガウンに着換えおわり、真っ暗な部屋に通される。よく目を凝らすと、蓄光で赤くぼんやり光る、龍の置物などが置いてある。いつのまにか、私達は小さい箱を持っている。箱には穴がたくさん空いてて、そこから小さな、人形の手のようなものが、出たり引っ込んだりして、とてもくすぐったい。中国風の置物に腰かけようとすると、それも箱と同じように、無数の穴からでた手でくすぐられてしまい、堪ったものじゃない。
気づくと暗室からは解放されていて、あたたかい日の射し込む廊下にいた。預けてた『傘』を返却してもらうが、似ているけど私の傘じゃなかった。居合わせた見知らぬ人も同じ状況らしく、「私達のほんとうの傘を返してください」と警察官に請いねがう。すこし向こうに、私の傘を使っている警察官を見つける。「貸出用」とテプラシールが貼られている。
自分の傘をとりもどした私は、いよいよ独房のある二階に移動するのだが、二階には私物を持込むことを厳しく禁じられている。傘を持っているのを見られたら、射殺されてしまうので、どうしようか...と悩んだ。